バングラデシュ・スタディ・プログラム - 報告書:分野別⑤
分野ごとの学び⑤:オールドダッカ・ダッカメトロ
概要
街にはリキシャや車が溢れ、国民のほとんどがイスラム教であることを表す数々の宗教建築やお祈りの道具が屋台に並び、嗅いだことのないエスニックな香りが料理屋から漂うダッカは、「まさに異国に来た」と感じる場所であった。非常に魅力的なこの土地で、高い志を持ち国際協力の分野で働く日本人職員の方々と食事をする貴重な機会をいただいた。本章では、現在バングラデシュに住む日本人職員の方々との食事会の様子、観光を通じたダッカの様子、さらに日本によるバングラデシュへの国際協力の花形とも呼べるダッカメトロについて紹介する。
食事会
食事会は、渡航メンバーの社会人が社内のバングラデシュ駐在員からお気に入りのお店を聞きレストランを決めた。お店は、バングラデシュの地元料理が食べられる「Pature Banani」である。食事会は日曜日の夜開催としたが、バングラデシュでは金曜日と土曜日が休日にあたり、日曜日は平日にあたる。休日の曜日が日本と異なることも、一つ驚きであった。
食事会当日には、国連、世界銀行グループ、JICA等様々な機関で働く現地職員の方々にご参加いただいた。渡航メンバーを含め約30名程度で一つの大きなテーブルを囲み、ベンガル料理のカレーのようなもの、揚げた魚、パン、米などを賑わいながら頂いた。当方が特に気に入った料理はBeef Bhunaという牛肉を使った料理であり、米やパンと合うため満足感の高い食事となった。渡航メンバーは皆ベンガル料理を美味しいと感じていたこともあり、相当な数の食事を注文し、様々なベンガル料理を試す機会となった。
食事会では、日中に渡航メンバーが現地職員の方々と話せなかった内容や、訪問していない機関の方々と話す貴重な機会であった。当方も訪問が叶わなかった国連機関の方々や、詳細に話を伺いたいと考えていた世界銀行グループやJICA職員の方々とお話する機会を頂いた。例えば、自分の現在の職務経験を踏まえつつ、今後求められる人材になるにはどういった領域に関わっていくべきかといったキャリアに関する話をさせていただいた。また、国際協力に関わることと、プライベートの両立といった点もご質問をさせていただき、自分の将来と重ねて働き方を想像することができた。ほかにも、機関訪問時に聞いた内容をより具体的に質問しながら詳細を伺い、さらに大学院進学に関する悩みへのアドバイス等もいただいたりと質問が絶えない食事会となった。普段の仕事ではお会いすることは難しい国際機関職員の方々に、親身に話を聞いていただき、貴重な意見や人生経験をご共有頂けたこの機会は、改めて非常に有意義な時間であったと考える。ご参加いただいた日本人職員の方々には、週の初めの夜に、日中と合わせて長時間お時間をとっていただき、また質問を投げかけられてばかりであったにも関わらず親身に一つ一つご回答いただいたことに、心より感謝している。
食事会とは別に、バングラデシュ渡航中に頂いた食事を紹介する。



ダッカ観光
バングラデシュへ観光で訪れる日本人は、多くはないだろう。しかし、実際に観光をしてみると非常に学びが多い経験となった。渡航中は一日中ほとんど国際機関や地方へ訪問しているため、ダッカ観光ツアーの参加が難しいかと思われたが、今回は特別にカスタムツアーを用意していただいた。渡航メンバーは20名程度いたこともあり、3グループに分け、異なる日程でツアーを用意していただいた。
当方が参加した回の観光ルートは、まず「Rose Garden Palace」と呼ばれる昔の地主の家が跡地となっている観光地からスタートした。入口で3名のツアーガイドと合流し、ツアーを始めた。「Rose Garden Palace」の中には、バングラデシュの伝統的な着物を着た多くの若い女性が写真を撮っていた。

次に、「Narinda Christian Cemetry」という歴史を感じる墓地へリキシャで向かった。この墓地はツアーガイドのお気に入りとのことで、バングラデシュの宗教に関する歴史を熱く語っていた。墓地の中には歴史的な建造物も存在した。バングラデシュは歴史的価値を持つ建物の保全が進んでおらず、ツアーガイドの団体はバングラデシュの観光振興に向け遺産の保全活動を行っていると伺った。今後のバングラデシュの観光には、こういった歴史的価値を守り、現地の人が旅行客へ伝えることが求められると考えるため、先進的な取り組みなのだと感じた。裏話となるが、ツアーの旅程では15箇所程度を3-4時間で回るというプランを用意していただいたが、時間の都合により幾つか場所を絞って回る形にしていただいた。ツアーガイドの柔軟で真摯な対応に敬意を表したい。

墓地に30分程度滞在した後、リキシャに乗り「Ahsan Manzil」というピンク色の宮殿に向かった。渋滞に巻き込まれ、10分程度で着くと聞いていた道に40分程度かけ向かうこととなった。しかし、リキシャで興味深い体験をした。その日は大渋滞があり、中々リキシャが捕まらなかった。すると墓地のすぐそばにリキシャの横で屋台のご飯を食べている少年がいた。少年はすぐにご飯をかきこみ、リキシャに乗って私たちの前に現れた。リキシャにはバイクのような種類もあれば、電動のモーターの様なものがついているものもあるが、少年のリキシャは単なる自転車であった。ツアーガイドと私の2人はこの少年のリキシャに乗り、少年に様々な質問をした。少年は、現在18歳であり、小さい頃中東に連れていかれ児童労働をさせられていたという。働いていた企業が潰れ、バングラデシュに帰国した後、この自転車だけで稼ぎを得ているとのことであった。ツアーガイドは、バングラデシュには児童労働がはびこっており、非常に残念なことだと少年の言葉に付け加えた。

その後、バングラデシュの家庭料理をいただいた。愛らしいおじさんと妻の手料理をいただき、お腹一杯ご飯をふるまっていただいた。また、祖先についても話していただき、代々受け継がれてきた帽子等を披露してくれた。笑顔が素敵なおじさんであり、また訪れたいと思える素敵な空間であった。

振り返ると、バングラデシュには興味深い歴史があり、日本とは全く異なる料理や様々な経験をしている人々がいる。また、今回私たちを受け入れてくれた人々は「おもてなし」を十分以上に体現していた。そして、遺産を保全しようと努力している団体もある。ダッカの渋滞問題への対策が満足度の高い観光には不可欠であると感じる一方で、観光振興の可能性は十分にあると感じた。
ダッカメトロ
MRT6号線乗車レポート
バングラデシュの首都ダッカは、世界有数の交通渋滞都市として知られている。道路にはリキシャ、バス、乗用車、バイクがひしめき合い、短距離の移動でも数時間を要することが珍しくない。こうした慢性的な交通問題を改善するため、日本(JICA)の支援により計画・建設されたのがダッカ初の都市鉄道であるMRT6号線である。
MRT6号線は、Uttara NorthからMotijheelまでを結ぶ高架式メトロで、全長約20.1km、16駅から構成されている。2007年頃から計画が進められ、日本の円借款による資金協力と技術支援のもと、2016年に本格的な建設が開始された。工事はCOVID-19の流行や治安上の問題などにより遅延したものの、2022年以降、主要区間が順次開業し、現在はダッカ市民の重要な交通手段として定着しつつある。
今回は、このダッカメトロを利用した際の内容をまとめる。
今回利用したUttara North駅は、周辺の住宅地に隣接する主要駅の一つで、多くの通勤・通学客で賑わっていた。駅構内にはベンガル語表記の看板が目立ち、日常の足として市民に受け入れられている様子がうかがえた。また、駅には日本とバングラデシュの協力を示すプレートや国旗が掲示されており、本事業が国際協力によって実現したインフラであることを象徴していた。高架構造の駅は動線が分かりやすく、階段やエスカレーターの配置も合理的で、乗客の流れは非常にスムーズであった。

切符は有人窓口で購入したが、利用者は整然と列を作っており、公共交通機関としての秩序が保たれている点が印象的だった。切符は厚手の紙製で、日本の磁気券とは異なるが、高温多湿な気候や頻繁な使用を想定した仕様であると感じられた。自動券売機も設置されており、今後の運用拡大や利便性向上が期待される。


車両は日本企業によって製造された車両で、外観・内装ともに日本の都市鉄道と共通点が多い。埼京線の色違いのようなデザインで、親近感が湧いた。電車は自動列車制御システムにより定時性が高く、車内には強力な冷房が完備されている。座席は耐久性を重視した素材で、暑さの厳しいダッカの環境に適した設計となっていて、日本の布製の椅子ではなく、固い座席となっていた。車内は静かで清潔感があり、多くの乗客がスマートフォンを操作しながら落ち着いて過ごしていた。また、女性専用車両が設けられており、女性の安全性に配慮した運用がなされている点も特徴的である。


高架線からの車窓からは、道路上の渋滞とは無縁の移動が可能で、ダッカの街を新たな視点から眺めることができた。建設途中の高層ビル、低地に広がる水たまり、スラム地区と新興住宅地が混在する風景は、急速な都市化の只中にあるダッカの現状を如実に映し出していた。インフラ整備の進展と課題が同時に存在していることを、視覚的に理解できる体験であった。


ダッカメトロの快適さは、その後に経験した長時間の道路渋滞の中で、何度も思い出された。MRT6号線は、日本の技術と国際協力が、発展途上国の人々の日常生活を具体的に支えている好例であるといえる。混沌とした都市空間の中で、時間と安心を提供するこの電車は、バングラデシュの将来に向けた重要な基盤となるインフラであると強く感じた。


