コロンビア・スタディ・プログラム - 報告書「渡航中:UNICEF」
要約
UNICEFは、第二次世界大戦後の子どもたちを救済する目的で1946年に設立された国連の子ども専門機関であり、特に困難な状況にある子どもたちの権利保護に注力している。コロンビア事務所では、健康や栄養の促進、水と衛生(WASH)の改善を主要な取り組みとしている。コロンビアでは極度の貧困や気候変動、災害リスクが子どもたちを取り巻く深刻な課題となっている。渡航中は特に水と衛生分野のWASHプロジェクトの紹介がなされた。これは水道設備の設置や改修、水質モニタリング、衛生キットの配布などを通じて安全な水や衛生環境の提供を目指している。また、人工衛星やAIを活用した水衛生ニーズ調査や社会行動変容の促進にも注力している。これらの活動はコロンビア政府機関との協働で行われており、コスト効率性や具体的な支援方法を重視したアプローチが取られている。日本では当たり前のように維持されている水衛生の大切さを知るとともに、大人よりも脆弱な子どもへの支援の重要性を再認識した。
1.機関の組織概要
UNICEF(United Nations International Children's Emergency Fund)は第二次世界大戦後の子どもたちを救済する目的に1946年に設立された。(1)その後名称が変化したが、人びとに親しまれたUNICEFはそのまま使用されている。(1)国連の子ども専門機関として、困難な状況や支援が届きにくい子どもたちの権利を守るために活動している。(2)
コロンビア事務所はWASH(水、衛生、衛生設備)へのアクセス改善、健康と栄養の促進等の取り組みを行っている。(3 )総スタッフ数は明らかとなっていない。
2.機関が取り組んでいるコロンビアの課題
コロンビアは5168万人の人口を有し、そのうち27%が子ども・青年である。(3)極度の貧困率は13.8%に達し、子どもの52.3%が金銭的貧困に直面するなど、依然として深刻な不平等が存在している。(3)
コロンビアは気候変動と災害リスクの面でも脆弱であり、災害リスクランキングで世界5位に位置している。エルニーニョ現象の影響で、2023年だけでも44万4000人が災害の影響を受けており、その中には12万6900人の子どもが含まれている。(3)
健康と栄養の分野では、5歳未満の急性栄養失調が増加しており対応が急務となっている。妊産婦死亡率が2021年以降減少するという改善も見られたが、予防接種率の低下が新たな課題となっている。(3)
水と衛生(WASH)の分野では、都市部と農村部の間で格差が顕著である。都市部では飲料水普及率が98%に達しているが農村部では76.2%にとどまっている。農村部の住民が依然として屋外排泄を行っており、インフラ整備の格差解消も大きな課題となっている。(3)
3.機関が取り組んでいるプロジェクトの内容
今回のブリーフィングでは、UNICEFのプロジェクトのうち特にWASHの紹介がなされた。UNICEFは前述のコロンビアの課題の1つである「水衛生」に対し、WASHプロジェクトを行うことで解決しようと取り組んでいる。
3-1. 背景にある課題
①清潔な水へのアクセス
130万人(人口の約3%)が清潔な水へのアクセスが欠如していると推計されている。
②トイレへのアクセス
49万人(人口の約1%)がトイレへのアクセスが欠如していると推計されている。地方部の約30%の人がトイレへのアクセスがないと予想されており、野外排泄が習慣化されている。これは乳児の深刻な下痢を引き起こす原因として問題視されている。
③学校衛生
学校での水供給の不安定さ、消毒システムの不十分さ、手洗い習慣の低下などが課題としてあげられている。
3-2. UNICEFが取り組んでいるWASHの具体的内容
①水衛生へのニーズ調査
人工衛星の画像データとAIを組み合わせた画像解析や、国勢調査・独自調査を用いて、人々の水衛生のニーズを明らかにしている。
②水道設備の新規設置・改修、水質のモニタリング
人々の安全な水へのアクセスを改善することを目的に、水道設備の新規設置や改修、並びに水質のモニタリングを行っている。
③コミュニティごとの衛生環境・衛生行動を改善する戦略の立案・実行
学校・市場・住宅など各コミュニティに適した衛生環境や衛生行動を改善する戦略を立案し、実行している。特に人々の社会行動変容を促す方策を立案している。
④衛生キット・物資の配布
特に脆弱性が高い小児・女性を対象に衛生キット・衛生物資の配布を行っている。
3-3. その他特記事項
- UNECEFのプロジェクトはコロンビア政府機関と協働して進められている。
- コロンビアは気候変動の影響を受けやすいことが知られている。気候変動への対策が重要であるが、環境領域のリーダーは殺害される危険性が高く、特に若年層のメンタルヘルスサポートが必要である。
3-4.印象的な質疑応答の内容
- UNODCも同じように人工衛星画像データ等を利用しているが、協働はされておらず、同じ国連機関で協働できるようなシステム作りが急がれている。
- 政府機関と協働する時に気をつけている要素は2点あり、①支援の具体的な方法および実現可能性をわかりやすく説明すること、②この支援の方法によってどれくらいコストが削減されるのか(コスト効率性)を明示することである。
- スラム地域の住民の衛生状況と先住民族の居住地域とどちらも衛星データなどで情報収集している。
4.参加者所感
UNICEFのWASHプロジェクトについて詳細に学ぶことができ、水衛生が公衆衛生において極めて重要な課題であることを再認識した。背景にある課題と、それに対する解決策(プロジェクト)の具体的な方法を知ることができた。最近の国連機関のトレンドである人工衛星画像データを用いたマッピングによるニーズ調査については、普段の日本の日常生活では知り得なかったため、大変刺激を受けた。
コロンビアの水衛生の現状は、日本の生活からは想像しにくいものであった。訪問していたのは首都ボゴタだったが、問題が深刻な地方部との間には明確な格差があるということを、より想像できるようになった。日本の水衛生技術が非常に高いことを改めて実感するとともに、国際協力の文脈で日本がこの分野において大きな役割を果たせる可能性があると感じた。
引用文献
- (1) unicef 子どもと先生の広場. ユニセフの歴史. https://www.unicef.or.jp/kodomo/nani/history/hi_01.htm?t Accessed on 26.12.2024.
- (2) unicef for every child. What we do. https://www.unicef.org/what-we-do Accessed on 26.12.2024.
- (3) unicef for every child. Country Office Annual Report 2023 https://www.unicef.org/media/152361/file/Colombia-2023-COAR.pdf
