コロンビア・スタディ・プログラム - 報告書「渡航中:SALON DEL NUNCA MAS」
要約
グラナダは長年にわたる紛争のなか、水資源をめぐって様々な武装勢力が侵入した土地で、その争いの中で市民も多く犠牲となった。SALON DEL NUNCA MAS(以下、「紛争記念館」)はそのような土地であるグラナダの悲劇を伝えること、生き残った人が平和に向けて建設的な話し合いを行うことを目的としてグラナダ市民によって作られた施設である。
そこでは戦争犯罪や家族を殺された悲しみに苦しみながらも、市民と元戦闘員の和解が進められ、紛争の加害者・被害者という枠組みを超えた関係が構築されつつあった。
1.機関の組織概要
SALON DEL NUNCA MASは直訳すると「二度と繰り返さないための部屋」という意味を持ち、紛争で特に大きな被害を受けたグラナダに建てられた施設である。この紛争の記憶館の目的はグラナダで起きた悲劇を記憶し伝えていくことと、紛争を生き抜いた人が平和に向けて建設的な話し合いを行うための場を作ることであり、グラナダの女性住民が組織したNGOによって運営されている。
2.機関が取り組んでいるコロンビアの課題
(1)戦争犯罪
紛争中、国軍に課された地域ごとのゲリラ兵殺害ノルマや、ゲリラ兵を殺害による昇給制度が要因で、一般市民にもかかわらずゲリラ兵とみなされ殺害された人々が存在する。このような人々はグラナダでは報告されたものだけで200名に及ぶ。そのほかにも、グラナダで死亡・行方不明となった人の中には、国軍によって連れ去られ、性的被害を受け殺された少女も存在する。
さらに、失踪者の人は遺体がないためお墓を持つことができず、市民にも関わらずゲリラとして殺された人々は「false positive(偽りの戦果)」と認められない限り、ゲリラと認定されているという理由でお墓を持つことができない。戦争犯罪に巻き込まれた人々の真実を明らかにし、残された遺族のサポートを行うことが課題となっている。
(2)元戦闘員と市民の和解
平和を作っていくためには加害者である元戦闘員と被害者である市民の和解が必要不可欠であり、コロンビア全域で取り組まれている。特にグラナダは紛争の最中に大きな被害を受け、多くの犠牲者を出した場所である。それだけでなく、コロンビアの紛争の一因には都市と農村の格差があり(1)、農村地域のグラナダからFARCなどの左派勢力に所属・支援していた人がいるため、この和解のプロセスはグラナダにおいてより重要な課題であると考えられる。
3.機関が取り組んでいるプロジェクトの内容
(1)紛争の記憶の伝承への取り組み
紛争記念館では紛争の記憶を伝えていく取り組みを行っている。山間地域のグラナダでは豊富な水資源を利用して発電が行われており、その資源があったために武装勢力間で土地をめぐる争いが起こった。武力間の緊張がエスカレートした結果、2000年に起きたFARCによる爆破事件では村の40%が破壊され、事件前には2万人が暮らしていたが、2004年には4500人にまで減少した。グラナダでは3000人の死者、700人の行方不明者をだすなどコロンビア全域でみても大きな被害を受けることとなった。このようなグラナダで起きた悲劇を繰り返さないために、紛争記念館ではその当時の状況を写真や文章を用いて伝えている。
(2)遺族への取り組み
紛争記念館には1997年から2005年の間に死亡または行方不明となったグラナダ市民の写真、約300名分が壁一面に飾られている。それぞれの故人・行方不明者に対して残された遺族が思いをつづることのできるノートが用意されており、父の日や母の日、クリスマスに訪れて遺族が故人・行方不明者と向き合い、前を向いて生きていくことを支える場となっている。そして、市民にも関わらずゲリラとして殺された人や行方不明になった人のお墓を作ることができないため、そのような人の遺族にとっては、紛争記念館はより重要な役目をはたしている。これらの写真やノートも紛争の記憶を伝えていくために一般に公開されている。
(3)元戦闘員と市民との和解への取り組み
紛争記念館では、紛争の被害者である市民だけでなく、警察やパラミリタリー、ゲリラなど様々な人が平和を作るために建設的な話し合いを行うことのできる場作りにも取り組んでいる。FARCに対して恨みを持つ人もいたが、和解のためにお互いの経験や真実を告白しあうことで、元戦闘員とグラナダの市民とが互いに歩み寄ることができたという。このような和解プログラムやコーヒー栽培などの共同作業を行う中で、紛争の加害者・被害者という枠組みを超えて、ともに平和な未来を作るものとして関係を再構築することができる。
また、以前はグループ単位でしか行えなかった武装解除が2022年の法律改正により、個人でも行えるようになり、個人で武装解除を行い、和解のプロセスに参加できるようになった。
4.参加者所感
紛争記念館には紛争時のグラナダの様子や故人の写真が展示されており、紛争で多くの人が犠牲になったことを実感させられた。また、本来市民を守るべきである国軍が市民を誘拐したり、政府が爆破事件後の復興支援を行わなかったりと、政府の機能不全があったことも強く感じた。かつて紛争の被害を受けた人たちと、元FARCの人に、同じ場で昔の経験をうかがえたのは、とても貴重な経験であった。お互いが色々な考えや過去を持ちながらも、被害者・加害者という関係性をこえて平和な未来を作るために前を向いて一緒に取り組んでおり、混沌とした現在の世界で希望の一つであると感じた。
引用文献
(1)JICA.(2023)日本のコロンビアにおける平和構築アプローチ~Paz Total実現への貢献~. JICA. https://www.jica.go.jp/overseas/colombia/sjp04ove1871/__icsFiles/afieldfile/2023/11/10/leaflet_jp.pdf
