スリランカ・スタディ・プログラム - 報告書「第2部 第2章 第4節 国際協力におけるリーダーシップを考える―忍足謙朗氏勉強会」
第4節 国際協力におけるリーダーシップを考える―忍足謙朗氏勉強会
<講演会について>
当初の渡航前勉強会では予定されていなかった、(1)一般に公開し、(2)外部講師をお招きする勉強会を企画したのは以下の理由からである。
- (1) 一般公開する勉強会には、スタディ・プログラム参加者のみではなく、一般の方にも学びの場を提供し、同時に国連フォーラムの知名度を高める、という狙いがあった。
- (2) 渡航前勉強会では、参加者内での学びは深めることはできたものの、客観的意見が欠けていたという問題点があった。また、プログラム参加者から経験豊かな外部講師の方のお話を伺いたいという意見もあり、開催を企画した。プログラム参加者に希望を募ったうえで、講師の方々と連絡を取った結果、元国連世界食糧計画(United Nations World Food Programme: WFP)アジア地域局長の忍足謙朗氏をお招きすることに決定した。忍足氏は、国連職員として、スリランカを含むアジアで広くご活躍されたご経験をお持ちの方である。国連フォーラムでも対談記事が発表されていたこともあり(1)、深い見識と現場からの新しい視点を参加者は学ぶことができると思い、打診させていただいた。
<講義内容>
食糧安全保障(Food Security)が保たれている状態とは、「すべての人が常に活動的・健康的生活を営むために必要十分で、安全で栄養価に富む食糧を得ることができる状態」をいう。食糧安全保障が脅かされている人々は世界に約8億人いるが、これは世界に食糧が足りていないからではなく、貧困によって食糧へのアクセスができない状況にあるためである。毎年約300万人の子どもが栄養失調を原因として亡くなっている。また、栄養不足は、子どもの認知的発達・学習能力の発達の阻害にもつながるため、成人になってからの生産性も脅かされ、GDPにも負の影響が出るとされている。緊急時の食糧支援は命をつなぐ支援であり、国家の発展にはつながらない。紛争が無ければ、緊急人道支援に利用していた金額を開発支援に利用することができ、国家の発展に寄与できていたと考えられる。また、援助を行う際には紛争の背景や人々が平和を実感できる「平和の配当」の実現を考えている。
<議論の内容>
国際社会におけるリーダーとは、全体像を示し、皆の意見を聞いた上でどう実現するかを決断する役目を果たさなければならない。しかし、方向性については一貫性を保つ必要がある。緊急援助はいきあたりばったりとなる時があるが、実務面での一貫性と自分の判断の一貫性は、必ずしも違うものではない。ルールを破る時は自分勝手なものではなく、皆の意見を聞いた上でルールを破り責任を取ることが求められる。
<参加者 所感>
忍足さんは「強くて、優しい」方でした。常に動き続ける緊急事態の最前線で、冷静さと温かさをもって、決断を下し、チームを率いて結果を出す忍足さんのお話は、驚きと刺激に満ちたものでした。そのなかでも「国連職員に必要なリーダーシップ」の話は、とても考えさせられるものがありました。
しばしば「どのようなリーダーシップを持つべきかは人による」と言われますが、その中でも忍足さんの「現場で考え、大らかに人に任せる」ことを基調としたリーダーシップは稀有な部類に入ると感じました。はじめて聞いた時は、「そんなやりかたで結果を出しているなんて、とてもまねができない」とも思いました。しかし、忍足さんの人柄や経験を聞くと、「なるほど」と納得のできるリーダーシップだとも思いました。結局、マネージャーとして結果を出すためには、自分の性格に合わせたリーダーシップを育てることが必要なのではないか。そしてそのためには、まず自分をよく知ることから始めることが大切なのではないかと考えるようになりました。
- 国連フォーラム「国連職員Now!第160回:特別対談企画 忍足謙朗さん」http://www.unforum.org/unstaff/160.html, accessed on 13 November 2015.