スリランカ・スタディ・プログラム - 報告書「第2部 第2章 第3節 第5項 「脆弱な人々」の観点からみたスリランカの現状と対策」

第5項 「脆弱な人々」の観点からみたスリランカの現状と対策

<問題意識および問題意識をめぐる議論>

「脆弱な人々」チームでは、まず「脆弱性」とは何かについて検討するために、強制移動、および多数派・成人男性との比較という二つの軸を設定し、(1)国内避難民(internally displaced persons: IDP)・難民、(2)子ども兵、(3)少数民族、(4)ジェンダー、(5)人身取引の被害者という5つの「脆弱」だと一般に言われる人々を特定した。その上で、(A)スリランカにおける現状、(B)スリランカ政府の取り組み、(C)国際機関による取り組みについて、議論を行った。

強制移動なし強制移動あり
多数派+成人男性脆弱だとはみなされない難民・国内避難民・帰還民
上記を、片方、あるいは双方満たさない人々女性、子ども、高齢者、障がいを持つ人々、少数民族など人身売買の被害者/「避難を強いられた」女性、子ども、高齢者、障がい者、少数民族など
表①脆弱な人々のカテゴリー分け

その上で、実は国際社会が見落としている脆弱な人々がいるのではないか、という問題意識から、「レジリエンス(resilience)」(1)を、脆弱性を測定する基準にしてはどうかということを提案した。

<議論の内容>

難民・IDP、子ども、少数民族、ジェンダー、人身取引の被害者たちが抱える脆弱性や取り組むべき課題について考えた。議論では脆弱な人々が単に支援を受ける対象ではなく、自立し持続可能な社会の担い手となるためのアプローチ方法を議論した。

議論の中では、(1)移動の自由を保障した上での職業訓練、(2)民族共存のために教育とメディアによる意識改革、(3)難民・IDPに関する国籍や必要最低限の権利、特に言語権の保障、(4)法的整備の必要性といった意見が出た。

今回は、国際移住機関(International Organization for Migration: IOM)プログラム・マネージャーとしてお勤め(当時)の橋本直子氏を講師としてお招きした。IOMや国連難民高等弁務官事務所(United Nations High Commissioner for Refugees: UNHCR)におけるご自身のご経験から、難民・IDPについてお話しいただき、難民概念の整理や国際機関と現地政府との関係性、今後のキャリアパスなど、参加者との活発な議論が行われた。

<問題意識に対する仮説>

  • (1)元子ども兵への心理ケアはNGO(Sarvodaya Vocational Training Centre: IDP支援や元子ども兵の社会復帰支援などを行う、スリランカ国内最大のNGO団体)が中心となって行われているものの、十分に全体に行き届かせるだけの資源がない。
  • (2)国際機構は、政府の意向を忖度しながら、事業内容を決定する。対象地域の選定などについては、政府の意向に背くことはできないが、決定された範囲内で、自らが支援してきた人々に聞き取り調査を行いながら、ニーズを把握し、事業内容を決定する。
  • (3)国際機構の能力(資金・ノウハウ)によって結果は様々である。また、支援対象とならなかった地域・人々から出てくる不満をどのように解消するかなど、事業のアフターケアが新たな課題となってくる。

<勉強会参加者 所感>

今回は第4回目の勉強会ということで、これまで学んできたスリランカの歴史、政治、教育といった背景を踏まえて、「脆弱な人々」という新たなトピックと関連付けながら考えることができたので充実した勉強会となった。机上で勉強したことを今度は実際に渡航し、フィールドでの学びに繋げていきたい。

<橋本直子先生(2)からのコメント>

8月2日に東京で開催された「スリランカ・スタディ・プログラム」の事前勉強会に参加させて頂きました。一言で言って、参加者の皆様の事前調査への意欲と中身の質の高さに舌を巻きました。自分自身の学生の時とは全然違う!というのが率直な感想で、心底感心しました。また私がスリランカ北部で勤務していたのは既に10年近く前なので、勉強会で行われた発表から逆に私自身も学ばせて頂きました。

特に、今回のスタディ・プログラムの渡航先としてスリランカを選ばれたことは大変意義深いと思います。スリランカでは実に30年近くも内戦が続き、ある意味「独特な形」で終結しました。スリランカの今後の本当の意味での和平と発展は、始まったばかりと言えるでしょう。紛争終結後の和解・平等・開発がどれほど重要で大変かは、他の紛争でも実証されています。この報告書が、今回スタディ・プログラムに参加できなかった方を含め多くの方に読まれることを望みます。

また、国連フォーラムという場を通じて、このような貴重な勉強会やスタディ・プログラムが実施されることにも敬意を表します。私自身が学生の頃はこのように準備された場が無かったので、自力で勉強会を探したり、現地でのボランティア活動を発掘しなければなりませんでした。そのような勉強会やフィールド・スタディで得られる気づきや体験、人との繋がりというのは一生の宝物になるはずです。今後も、国連フォーラムを通じてこのような貴重な営みが活発に継続されることを願います。

写真①東京会場にて橋本直子さんと
  1. 「世界リスク報告2011に学ぶ教訓」www.ourworld.unu.edu/jp/lessons-for-japan-from-the-worldriskreport-2011, accessed on 31 July 2015.
  2. 橋本直子氏については、以下の国連フォーラムインタビュー記事も参照のこと。(1)フィールドエッセイ第7回, accessed on 16 November 2015; (2)国連職員Now!第161回, accessed on 16 November 2015.