スリランカ・スタディ・プログラム - 報告書「第2部 第3章 第2節 第1項 食糧安全保障・第2項 人の移動・移住」
第1項 食糧安全保障
- 訪問日:2015/09/07+2015/09/09
- 訪問機関:国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO)
- 訪問事業名:(1)貯水池建設現場、(2)シーバス養殖籠、(3)作物栽培(papaw)、(4)貯水池
※ SSPでは北部訪問においてAチームおよびBチームに参加者が分かれて行動した。FAOの事業地は両チームともに訪問したが、それぞれ異なる事業地を訪問したため、Aチーム、Bチームと分けて記載することとする。
<Aチーム>
訪問先事業概要
FAOは、「人々が健全で活発な生活をおくるために十分な量・質の食料への定期的アクセスを確保し、すべての人々の食料安全保障を達成する」ことを目的とした国連の専門機関である1 。Aチームは、稲作農地のための貯水池とシーバスの養殖籠を訪問した。貯水池では、重機を使って溜池を掘り返している最中で、未完成の堤防の上を歩いて見学。養殖籠では、10個ほどの水中にある籠に700匹の魚を飼い、現地住民が管理している。
- FAO日本事務所ウェブページ:http://www.fao.or.jp/about/details/purpose.html, accessed on 16 November 2015.
事業地訪問における主要論点
- “We Lost Everything”
- 戦争によって彼らが失ったものの大きさや絶望感とともに、今の発展への期待も感じる。
- 成功確率の高い事業地の選定
- 事業を成功に導くため争いの少ない地域など事業地の選定に留意している様子が伺えた。
- 支援を受けた場所とその他との軋轢
- 支援対象者とそうではない人の間に生まれる「不公平感」について、どうやって解決してゆけばよいのか。
議論および質疑応答内容
「We Lost Everything」と語っていた地元民はこの事業に希望を感じているようであったが、水使用の配分や、村八分の場合の対応など、今後もため池から生まれる問題があることを考えると複雑だった。事業地についても、一番成功率が高いと思われる地域を選定して取り組んでいるようなので、ぜひとも成功してもらいたい。
支援によって助けることができる人がいる一方、助けることができない人も生まれてしまう。対象にならなかった人たちはどうなるのか。それによって新しい争いの火種になってしまっている可能性もあると思うと、支援による影響はマイナスの振れ幅もあるということを覚えておかなくてはならないかもしれない。仮にそこに不平等が生まれることは仕方がないとするのであれば、現在行われている事業の成功は今後の支援に繋がるものなので、必ず成功させる必要がある。それを考えるとなおさら、ため池での進み具合に心配が行き、心が休まらなかった。
参加者の所感
国際機関が行う事業への個人的な印象として、技術的に複雑なものではないはずだと考えていたため、同種の事業を多数立ち上げていけるものだと思っていた。しかし実際には、技術的に難しかったり、管理体制に課題が生じたり、受益者以外の人たちとの軋轢が発生したりといった問題があった。また、受益者以外が納得する理由を持って支援をすることが難しいと感じた。そのため、生活基盤を作る事業は、受益者もリスクを背負う形のビジネス的なアプローチの方が、周りとの軋轢のようなものも生まれにくく、事業を成功させるために皆が必死に取り組むのではないかと思った。
<Bチーム>
訪問先事業概要
Bチームは以下の3つの事業地を訪問した。
- 作物栽培: 紛争後の再定住を促す自立支援事業
- 貯水池建設現場: 水資源管理・貯水事業
- 貯水池: 貯水・漁業(養殖)促進事業
事業地訪問を通した考察
- 国連という第3者による介入において、政府や現地民ら当事者との利害関係や立場などの調整問題が必ず付きまとう。
- 当事者による問題意識の提起およびその解決がどこまで図られているのかという疑問が残る。当事者の当事者による当事者のための意識改革が非常に重要。国連の手の差し伸べ方は難しい。
- スリランカでは、特に農業において、「食」のための活動だけでなく、ビジネスにつながる有力な潜在的可能性がある。
議論および質疑応答内容
- (1)途上国では初めからビジネスを主眼に置いた市場志向型農業が随所で行われている。
- 間作などを利用した効率的かつ効果的な栽培の支援
- (2)より多くの収入を得るための工夫
- 中間業者による物流の円滑化を取るか、彼らに支払うマージンをコストととらえて差し控えるか。
- (3)多品種少生産による農産物のポートフォリオ
- 市場価格の変動に柔軟に対応
- (4)大規模な貯水池工事について、その施工主体
- 技術専門家はタイから、送電線は国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA)、精査は政府など様々なアクターの関わり
- (5)漁業者と農家による水の利権争い
- 当事者間での話し合いの重要性。協働に向けて自分たちでどう解決していくか。国連はそこにどのようなアプローチが考えられるかが今後の課題。
参加者の所感
一つ一つの技術プロセスが緻密に複雑に効率よく構成されており、それらを現地民が自立して正確に活用しつくすのにはまだまだ時間が必要だということがわかった。スリランカは中進国への躍進を目指すという国のイメージがあったが、種々の問題の解決にはまだまだ時間がかかり、国連からの援助はいまだ欠かせない。
また、同じ国連機関の一つである世界食糧計画(World Food Programme: WFP)と比較すると、FAOの事業は、緊急食糧援助ではなく、食糧確保の基幹・土台づくりのための技術伝承という教育的意味合いが強いことが見て取れた。その意味で、彼らが技術を身につけ自立した時、国全体に与えるマクロ的影響は非常に大きいものになるだろう。
- 訪問日:2015/09/08
- 訪問機関:国連世界食糧計画(UN World Food Programme: WFP)
- 訪問事業名:学校給食支援事業(School Meals Programme)/母子保健栄養事業(Mother and Child Health and Nutrition Programme)
訪問先事業概要
WFPは、飢餓のない世界を目指し、人道危機に置かれた人々に速やかに食糧を届けることで、その人々の命を救うことを目的とした国連機関である。今回は、(1)学校給食支援事業 と(2)母子保健栄養事業を訪問した。
- (1)北部州の小中学校(963校)の生徒約16万人に対する食糧援助。長期の内戦からの復興を目指す北部州にて、必要な栄養摂取を見込める学校給食を提供し、生徒の栄養状態の改善とともに継続的な就学機会の確保を目指している。
- (2)北部県の妊産婦や乳幼児(6か月から5歳未満)に対し、スーパーシリアル・プラスと呼ばれるトウモロコシと大豆にビタミンとミネラルを配合した栄養補助食を各地の保健センター等(5県620施設)を通じて提供し、栄養状況の改善を目指している。
事業地訪問における主要論点
- (1)学校給食支援事業
- 学校給食を支援する意義は、栄養面の改善だけでなく、就学機会の確保、地産地消、収入向上、ジェンダー意識の見直しといった波及効果が副次的に認められることにある。
- 将来にわたり持続的に学校給食を提供するためには、食糧価格の高騰やボランティアに依存した体制等、資金面で克服すべき課題は多い。
- 学校給食に限らず、支援として食事の提供を行う場合、当該国や地域の生活習慣や宗教等、文化的な側面への十分な配慮が必要となる。
- (2)母子保健栄養事業
- スリランカ全土でも成長阻害、貧血、低体重出生の数値は高く、紛争の影響が残る北部州各県では栄養不良に直面している乳幼児は多い。
- 栄養状況等、現状に課題は多いものの、母子保健制度は、日本も含め世界共通のものが構築されつつある。
主な議論および質疑応答内容
- (1)学校給食支援事業
- 学校給食支援を通じた波及効果
- 訪問した学校(公立のタミル人小学校)では、事業の成果として出席率の向上や退学率の低下が挙げられており、今年度では0であるとの説明があった。またWFPは、教育省を通じて、地域の野菜を買いあげて給食として提供していることからも、地域農家の意欲や生計の向上への貢献が認められた。
- 克服すべき課題
- WFP地域事務所での質疑では、支援対象の学校として地域の約95%の学校が対象とされているとの回答があり、地域に包括的な支援が行われていると認められる。しかし、野菜の買い取りは教育省からの財源に依拠していることや学校給食の提供がボランティア・ベースで行われていることから、持続性の観点からは大きな課題である。
- 食事の支援の際の文化的な配慮の必要性
- 同じ食材を提供し続けるのは生徒にとっても飽きるのではないかとの問題意識から、学校給食のメニューをどのように決定しているのか、と質問したが、WFP担当官は調理方法等を工夫していると回答した。緊急人道支援等、食事を支援するさまざまな現場で、食に対する文化的な差異を十分配慮することの重要性を考えさせられた。
- 学校給食支援を通じた波及効果
- (2)母子保健栄養事業
- スリランカの乳幼児の栄養状況
- WFP地域事務所の説明によれば、2012年のデータで低体重の子どもが23.6%を占めており、特に乳児や5歳未満の幼児への対策が必要とのこと。どちらも深刻な問題であるが、いずれがより深刻かという問いに対し、WFPからは5歳未満の幼児の栄養問題はより深刻ではないかとの回答を得た。乳児の場合は妊産婦(母親)側に起因するものも含め、原因が特定しづらいが、5歳未満の幼児については単純に十分な食事を摂取していないことが主な原因と考えられ、早急な対策が必要という理由であった。 日本であれば即入院のレベルの栄養摂取状況で当地では砂糖の配給が行われ、さらに状況が悪くなって初めて入院し高カロリー食の提供を行うという実態もある。
- 保健センター
- 実際に保健センターを訪問し、巡回している医師(非常勤嘱託医)から聞き取りを行った。4人の医師が約24,000人を担当している状況。しかし制度的には2歳までは毎月、それ以降は幼児の状況に応じ、身長体重測定や各種アドバイスを行っており、制度的には日本の母子保健制度に類するものが構築されている。 予防接種については、センターによれば、対象乳幼児の98%が接種しているとのことであった。また国連児童基金(United Nation Children’s Fund: UNICEF)の支援を受け、自己負担なしで接種できる制度となっている。
- スリランカの乳幼児の栄養状況
参加者の所感
この学校給食支援事業には、日本政府も支援を行っており、数次にわたる無償資金協力により、東日本大震災の被災地産水産加工品等を供与している。訪問先の学校にもこのことが周知されているのか、手厚い歓待を受けた。ソーラン節を通じた生徒との交流も含め、今回の現地渡航の中で最も強く印象に残った訪問先の1つであった。
上記考察のとおり、学校給食の支援の波及効果についてはこれまでも様々な事例で立証されているが、今回の訪問でも今後の課題は散見されるとはいえ、栄養改善や就学機会の確保に加え、地元農家の現金収入増、将来的な雇用機会創出(現時点ではボランティアだが)といった潜在力を実感した。
保健センターの訪問では、他のプロジェクト同様、資金や人材の量的な制約は感じさせるものの、定期健診を中心とした妊産婦や乳幼児に対する保健制度がスリランカで構築されており、今回聞き取りを行ったセンターの非常勤嘱託医も母子保健制度に関する十分な認識は窺えた。現時点ではこの制度をスリランカ政府が運営するには、予算面、人材面、資機材面で、国際機関や各国の支援に依存せざるを得ないが、時間を要してでも、現行制度を活かし運営させることが将来の持続的な制度運営につながると感じた。支援を受けつつ制度を運営することで、知見が蓄積され人材が育つことから、その間に、経済成長等で得られる政府の自主財源を母子保健制度へ少しずつ配分を高めつつ、援助の依存度を段階的に下げていく取り組みが期待される。
現地渡航に先立ち、前WFPアジア地域局長の忍足謙朗氏を招いた渡航前の勉強会に参加し、忍足氏の使命感や行動力とともに「熱さ」に感銘を受けた。個人的には、今回対応いただいた北部州地域事務所のHassan代表にも共通する「熱さ」を感じた。現場での支援はもちろん、我々のような訪問客に対しても分け隔てない心のこもった応対を受け、現場で働く人間に必要な力量の1つを見た思いがした。
なお、余談だが、地域事務所での概要説明は専門用語や略語が多く、一度聞いただけでは難解で理解できなかった(スタディ・プログラム参加者の小児科医の補足説明で概要はつかめたが)。対外的に事業の説明をする際、相手方に合わせた簡潔明瞭な説明を行う配慮がいかに大事か、身をもって痛感した訪問でもあった。
第2項 人の移動・移住
- 訪問日:2015/09/08
- 訪問機関:国連人間居住計画 (United Nations Human Settlements Programme: UN-Habitat)
- 訪問事業名:Project for Rehabilitation of Community Infrastructure and Facilities in the Conflict Affected Areas in Northern Province of Sri Lanka(RCIF)
訪問先事業概要
UN-Habitatは、都市化や居住に関する様々な問題に取り組み、住居という観点から貧困層を支援する国連機関である。訪問先は、日本政府からの資金により2013年4月からUN-Habitatが実施している2年間の事業。内戦の影響を受けた北部のキリノッチとムラティブ地域における国内避難民を支援対象とし、持続的な復興と再建、再定住の促進を目的としている。
事業地訪問における主要論点
- インフラ整備に伴う住民の自覚や自治の意識
- 事業における実施手法としての「People’s Process」
- 事業における裨益者への聞き取りの難しさ
※詳細は下記の「主な議論内容・質疑応答内容」にて記載。
主な議論および質疑応答内容
- 物理的なインフラ整備に伴う住民の自覚や自治の意識
- 訪問した事業の実施現場では、内戦で破壊された道路や学校、コミュニティセンター等のインフラを再建し、80以上の村で復興が進んでいるという説明を受けた。加えて、村の自治組織や地方の行政機関においてUN-Habitatと住民との協調関係を築くことにより、建物の修繕技術やリーダーシップ・マネジメント能力の向上にも寄与することを目指しているという。たとえば、実際に道路の再建計画のあらゆる段階に住民たち自らが参画することで、これまでと道路の使い方や維持の状態まで違ってくるという。
- 事業における実施手法としての「People’s Process」
- 住民の参画を事業に積極的に取り込む方法について、UN-Habitatでは「People’s Process」というアプローチが取られている。今回訪問した事業でも採用されており、そこでは、住民たちがインフラ再建等の計画策定段階から意思決定に関わり、そして実際に建物等を再建する段階でも、住民たちの責任意識に基づき、より効率的・効果的に計画を実行していくことの重要性が強調されていた。
- 事業における裨益者への聞き取りの難しさ
- 今回の訪問先では、再建された道路や住居、コミュニティセンターにおいて住民たちから話を伺う機会もあったが、似通った回答になることが多く、より本音を引き出す質問の仕方をするにはどうしたらよいかが参加者の間の一つの議題となった。説明を行ってくれるUN-Habitatの職員を通して質問をすることになっていたが、再建された住居の住民から直接生の声を聴き取ることができれば、さらにより意義の大きい学びが得られたのではないかという議論になった。
参加者の所感
UN-Habitatの重要な事業実施手法である「People’s Process」については、事前の勉強会で学んだときも、現地で説明を受けたときも十分に理解・納得でき、むしろ誰もが賛成する手法だと考えられる。しかし、参加者の間でも議論になったように裨益者の本音を聴き取ることの難しさなどから、実際の現場で適用する際に具体的に課題になることやうまくいかない事例についても同時に学ぶことができれば、より理解が深まったと思う。また、コミュニティセンターの開館式に参加者の私たちをドナーである日本政府のお客様としてもてなしてくれた際には、支援する側とされる側という構図を意識させられ、複雑な思いも残る訪問となった。
- 訪問日:2015/09/10
- 訪問機関:国連人間居住計画 (United Nations Human Settlements Programme: UN-Habitat)
- 訪問事業名:スリランカにおける事業内容の説明
訪問先事業概要
UN-Habitatでは、男女平等社会の実現と女性の社会進出のための指導力の向上の2点に注力している。スリランカにおける主な活動は、恒久的な住宅の提供を通じたコミュニティ改善である。具体的には、下記のような事業を指す。
- Indian Housing Project(IHP):恒久的な住宅の提供を通じて、北部と東部の生活状況の改善、避難民・帰還民の社会的結束の強化など、避難民・帰還民のための持続的な開発を目指す事業。
- Project for Rehabilitation of Community Infrastructure, Improvement of Livelihoods and Empowerment of Women in the Northern and Eastern Provinces (RCI):女性のエンパワーメントに焦点を当てた帰還民・避難民が自らでコミュニティに必要なインフラを検討および実践し、重要な社会基盤の機能回復を自ら行う事業などを指す。
スリランカ事務所における主要論点
- UN-Habitatの活動目的として、大きく (1) 災害後と紛争後の復興 (2) 気候変動と防災 (3) 農園定住 (4) 定住促進と改善 の4つがあり、どの活動にも根底には、内戦や災害から影響を受けた人々を復興の過程の中心に置く、「People’s Process」という概念がある。
- スリランカでは、恒久的な住宅の提供を通じ、生活状況の改善および、避難民・帰還民の社会的結束を促し、持続可能な地域社会の創成を目指す事業などを行っている。
主な議論および質疑応答内容
- Q: Indian Housing Project (IHP)について住宅を提供される人々とされない人々の調整はどのように行っているのか?
- A:得点制を導入している。障がい者や子どもの数などの基準を設け、得点制にすることで能率的な住宅提供が実現している。選ばれなかった人々にも論理的に不選出理由を説明し、納得してもらうよう心がけている。
- Q:地方自治体へ事業内容を移管していく過程は存在するのか?
- A:引継ぎ方法を事前に協議し、移管を進めている。自治体が維持管理できるような体制の構築を行っており、コミュニティ建設などの住民自治と、地方自治体が担う団体自治のすみわけについても考慮をしている。議論では、引き継ぎの良例として、カンボジアではUN-Habitatの事業をプノンペン市が引き継ぎ、国全体で導入された例について言及がなされた。
参加者の所感
渡航前に、地方自治体の役割とは一体何なのかを深く考えた。具体的には、津波災害と内戦という二つの悲劇から復興するためには、国連は地方自治体や政府に助言および技術提供を行い、社会基盤や福祉制度を充実させることで、住民に対する福祉の実現を図るべきであろうと考えていた。しかし、現地事務所の方の説明からは、住民自治から復興を目指す意思が強く感じとれた。私が関心を持ったのはコミュニティにおける道路建設の事例である。道路建設にあたっては、コミュニティの住民自らが構想を練り、もし技術的に難しい提案がなされた場合は、政府の知恵を導入したり、技術員と契約、協業したりすることによって、実現可能な案を検討し、遂行していくという過程があげられていた。
地方自治とは本来、団体自治と住民自治とでわかれ、地方自治体のやるべきこと、住民自身でやるべきことが明確に分かれている。渡航先では、地方自治体は住民自身が生み出したものという意識が感じられ、以前の日本のやり方とは異なる、新しい復興のあり方を体感できたように感じる。
- 訪問日:2015/09/07
- 訪問機関:国際移住機関(International Organization for Migration: IOM)
- 訪問事業名:コケリヤ(Kokkeliya)村における灌漑システムの再建事業
訪問先事業概要
IOMは、「移動する人々」を支援する国際機関であり、「非自発的移住への対応」として特別なケアを必要とする難民・避難民への支援を行っている。今回訪問した事業地においてIOMは、30年に渡って土地を追われ続けた155の農家の帰還と再定住を支援している。再定住に当たり住民の声を反映して灌漑システムを整備し、米の二毛作を実現している。持続可能かつ長期的な成長・再定住の定着を目指す。現在もコケリヤ村への移住者が絶えない。
事業地訪問における主要論点
- 村を越えたつながり、受益者同士の協力体制
- 村の中での男女間の役割には偏り
- 特に女性側がコミュニティ運営に積極的な役割を果たすと同時に、負担についても偏りが存在
- 灌漑設備の重要性とその意義、建設方法
主な議論および質疑応答内容
- (1)村人との交流について
- 避難先で生まれた人々が戦後この村に帰還したため、周囲の地域との関わりが途切れた。この地域の需要として、戦後の教育制度、農業制度、灌漑システムの再建があるが、こうした「つながりの欠如」は住民同士の連携を阻害し、社会的、経済的、そして精神的問題の蔓延に繋がる。
- Q.生活面において紛争前との変化はあるか?
- A.伝統的な家もあったが戦争により破壊されるなど、生計手段などについて大きな変化。コミュニティ組織が持続可能な生計の確立手段を支援している。
- Q.男女の役割の違いは?
- A.子どもの教育費は女性が稼ぐことが多い。男性は農業や建築を行っているが、普段は女性の家事の手伝いを男性が行うことはほとんどない。また、教育費の支出にも女性が熱心。
- Q. 他のコミュニティとの交流はあるか?民族間交流についてはどうか?
- A. 紛争前も他コミュニティとの交流は存在したが、紛争後新たに移り住んだ人ばかりであるため("all new comers”)、分け隔てなく交流し、友人としての関係性を築きつつある。現在では、両親がシンハラ人とタミル人である子どもも生まれている。
- (2)灌漑システムの整備について
- 2キロ離れた川から取水して稲作を行う。8カ月かかったこの事業は今年で終了し、村人に維持方法を指導している最中である。事業終了後は、取高に応じて農家から会費を徴収し、灌漑施設の持続可能性を図っている。
- Q.どのように用水路を引っ張っていくのか。
- A.川から取水するのは1本の大きな水路を作り、水門のある堤防のような形の設計を行った。ただし、水を田んぼに細かく浸透させる用水路は資金不足から現段階では実現していない。
参加者の所感
国や県など大きな行政体ではなくコミュニティという受益者にとって一番身近な行政組織単位に着目し、内戦で土地を追われた農家が持つ「自分の生まれ育った故郷に戻りたい」という根源的な欲求に対してIOMは一番に寄り添える機関であると感じる。
ただ、「移民・難民」という切り口から受益者を支援している以上、他の国際機関と内容面での重複が生じるリスクは避けられないと感じた。今回視察した灌漑システムも後日訪問した国際農業食糧機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO)の専門分野であり、防災システムや雨乾季の水量を利用した新産業などをアドバイスしたFAOより支援内容で見劣りしてしまう可能性があるのではないか。個人的にはそのジレンマを、IOMはどうやって解決していこうとしているのか知りたいと感じた。