ミャンマー・スタディ・プログラム - 参加者紹介「第5回 井上良子さん」
「出会うということ」
所属:九州大学ユヌス&椎木ソーシャルビジネス研究センター
MySP担当班:研究保健班
私が人生においていちばん大切にしているのは人との出会いです。ときには人生観が変わり、進路選択にも影響を与えるような出会いがあります。しかし、よく考えてみると、そのような出会いというのは待っていれば向こうからやってくるものではありません。これまでの少ない私自身の経験から、重要なのは、出会うという出来事ではなく、出会う前の自分自身の備えや態度が決定づけているということです。自分のなかで無視できないほど何かに対する問題意識が膨れ上がったとき、自分の居場所はここではないと直感しながら身動きが取れず悶々としているとき、そのときそれまでに自分のなかに次の一歩を踏み出すだけの備えがあるか、次の一歩を定めて踏み出せるか、が出会いの前段階として重要だということに思い至りました。そして、目標をもってどこかへ進んでいこうと踏み出したとき、結果として出会える場所に行くことになり自分に影響を与える出会いがもたらされるのだと思います。
私とスタディ・プログラムは、まさにそのようにして出会ったといえます。漠然と国際協力に関心をもちながら地方(福岡)で生まれ育った私にとって、国連フォーラムは、可能性と現実に満ちた世界への扉となる場でした。不本意な形で地元の大学に通うことになった学部時代には、短期留学や大学の留学生との交流を通じて世界とつながろうとしていましたが、同じ志をもつ仲間と集う場が決定的に欠けていました。興味があるテーマや経験者から直接学び、同志と出会う機会を求めて、アルバイト代を貯めては参加していたのが東京で開催される国連フォーラムの勉強会やオフ会でした。その後、法律の専門家として途上国で働くことを目指して法科大学院を修了したものの、国際協力の現場を知らないことに焦りに似た問題意識をもち始めていた頃ちょうど出会ったのがスタディ・プログラムです。
プログラムでは参加者が「みんなでつくる」という原則のもと、社会人も学生も関係なく役割を分担して、訪問先の国際機関等との折衝・調整、現地でのロジ手配、しおりや事前資料の作成、勉強会の企画・運営など、メールやオンライン会議で全国・各国に散らばっているメンバーと徹底的に議論しながら策定していきます。いうまでもなく、多様な個性と才能をもった全国の参加者との出会いに刺激を受け、チームワークを学び、渡航前の事前準備から渡航後までのプログラム期間に関係を深めます。社会人も学生から大いに学ぶこともあり、普段の仕事や学生生活だけでは得られない学びにあふれたプログラムです。
最近ではよく「自分探しの旅」などと言われますが、「じぶん」というものは間違いなく他者との関係のなかで与えられるものだと実感しています。自分自身を含むネットワークにおける共同的な作業を通じてこそ、自分をよく知ることができ、誰かの役に立ってはじめて存在を確立できるからです。
そしてまた、プログラムで訪問した現地での出会いは、それまでの自分の思い込みを覆し、その後の進路や選択に少なからず影響を与えることになります。タイ北部の山岳地帯で暮らす少数民族の人びと、カンボジアで滞在した農村のホストファミリー、辺境の地で人間の安全保障の概念を実践する国連職員の方々、国連とパートナーを組む現地NGOの職員、長くコミュニティをまとめてきた村の長老、所得向上のためのプロジェクト受益者である農民、どの国でも純粋な笑顔の子どもたち…現地で出会う同時代を生きる人びとは、それまで机上では理解していたつもりのさまざまな問題について、人間が一日を生きる上での日々の問題だということを真に教えてくれました。
私がはじめて第2回スタディ・プログラムに参加した2011年は、その2年前に出会っていたムハマド・ユヌス博士が実践するソーシャルビジネスの分野に軸足を移す決意をした年でもありました。プログラムへの参加をきっかけに、国連フォーラムの幹事として活動全般の企画運営に携わるとともに、「国連とビジネス」班に所属することになりました。さらに今年は学生時代からの念願だった九州におけるネットワーク構築のために、国連フォーラムの九州支部も立ち上げることができました。
一歩踏み出して出会うことができた先に、点でしかなかった跡が軌跡としてつながっていき、自分を含むネットワーク、そして世界が広がっていく。そのようにして、これからも自分を広げ、深めることのできる出会いを求めて一歩ずつ、その過程で自分を誰かの役に立たせていきたいとあらためて思います。