ミャンマー・スタディ・プログラム - 振り返りエッセイ「No.6 正久卓哉」
「世界中の人々が満足に食べていけますように」
所属:筑波大学社会・国際学群4年
「使命と書いて『いのちをつかう』と読む。自分の命の使い方を真剣に考えなさい」
僕のMySPは、この問いに対する回答を探す道程でもありました。ちなみに、この問いは同じ参加者の学生からもらったものです。 MySPの紹介にもなりますが、このプログラムには大きく分けて二つの特徴があります。一つ目の特徴は、学生と社会人の両方が参加している点です。この意味は、「自分が出さないといけない価値や課された役割」について頭がパンクするくらい考えさせられるということです。正直自分のキャパシティの小ささに絶望し自己嫌悪にもなりました。二つ目の特徴は、「考えの共有」を非常に重んじる点にあります。その延長線上で、学生同士、学生と社会人、社会人と社会人という3つの関わり方を通じて、なぜ今の仕事をしているのか、なぜ今の活動をしているのかを考えることができます。いくつか例を挙げてみます。
- インドにて中国の弾圧から逃れたチベット難民に出会い、少数民族の難民問題に取り組んでいる人。 ・ベトナムでの結核対策のインターンに参加した結果、歯科医の免許を持ちつつも公衆衛生をビジネスの観点から解決しようとする人。
- 幼い頃アフリカで経験した「貧困と死が隣り合う悲劇」を世界中に伝えようとする人。
- ボーイスカウトの経験から、ミャンマーと日本のボーイスカウトの橋渡しを考えている人。
- 医療機関は存在しても国民健康保険の存在しない国において、医薬品の役割を勉強している人。
ミャンマー渡航中に出会った人の中には、下記のような人がいました。
- ミャンマーにおける画一的な教育体制から逃れて米国へ渡り、海外からミャンマーを改革する夢をもつミャンマー人学生。
- ミャンマーにおける英語教育に対する問題意識から、医師免許を持ちつつも英語教育の改革という夢をもつミャンマー人通訳さん(写真の右側はこの方です)。
こうした人々に出会い、話を聞く中で、「自分の問題意識」は止め処なく深まり、そのために自分は何をしないといけないのかを考え続けました。答えが見つからずに朝を迎えた日もたくさんありました。特に、通訳さんからは非常に大きなモチベーションをいただきました。
唐突ですが、その結果生まれた僕の夢は、「世界中の人々が満足に食べていける世界をつくること」です。 これには二つの思いが込められています。それは、「世界中から物乞いをなくすこと」と「世界中の人々が就労で困らない世界を作ること」です。
その原点は、いずれも小学5年生から4年弱滞在したフィリピンでの経験にあります。やせ細った子ども達が、手作りの花の首飾りを街で売ろうとして何度も断られる光景を車の窓越しに見ました。その子ども達と目があった瞬間、とっさに目を逸らして「ごめんなさい」と心の中でつぶやいた当時の心境は今でもはっきりと覚えています。その後、「東洋最大のスラム」と呼ばれるスラム街に隣接するゴミ山(通称:スモーキーマウンテン)において、食料やカネ目になる金品を探す子ども達の存在も知りました。「生まれた場所によって満足に食べていけるか否かが左右されるのはなぜだろう」というのが率直な感想でした。
そんな僕は、ミャンマー渡航中、ヤンゴン中心街で見かけなかった物乞いを夕食先の中華料理屋入り口で見かけた時、反射的に目を逸らしてしまいました。国際連合人間居住計画(UN-Habitat)の浄水施設を見学した際には、周囲の農村の一家庭の収入が一日あたり4米ドルで、一人当たり約1米ドルという話(職業はタクシードライバー)を聞き、彼らが毎日三食何を食べているのか疑問になりました。さらに、国連食糧農業機関(FAO)の援助によってサイクロン・ナルギスの被害から復興した農漁村も訪問しました。そこでは、援助の成果として、定置網によってスズキや手長海老、小魚、小ぶりなボラを漁獲できるようになったとのことでした。しかし、川の流域面積に対して取れる魚は比較的小さいものばかりでした。「魚を育てて漁獲する」という考えが定着すればもっと大型かつ多種類の魚を漁獲し生活資金を得ることができるかもしれません。
こうした自分の記憶と、「使命と書いて『いのちをつかう』と読む。自分の命の使い方を真剣に考えなさい」という言葉を通じて、プログラム開始から、今後の自分の「命の使い方」について考えました。しかし、正直な所、世界中の人々が満足に食べていける世界をつくるために何をしたらいいのかはわかりません。ただ、幸いにも僕は4月から社会人として、食品加工と加工材料の買い付けを行う日系食品会社で働きます。
世界の食事情は今どうなっているのか、そして今後どうなっていくのか。 どうしたらもっと多くの人々が食べていける世界を作れるのか。 どうしたらもっと多くの人々が就労できる世界を作れるのか。
これらの問いに対して、まずはビジネスの観点から回答してみようと思います。10年後に自分が世界に対して何ができているのかを想像すると、4月から新しい一歩を踏み出すのが楽しみです。