スリランカ・スタディ・プログラム - 報告書「第2部 第2章 第3節 第1項 紛争予防と平和構築の実現」
第1項 紛争予防と平和構築の実現
<問題意識および問題意識をめぐる議論>
- スリランカの平和構築の現状はどのようなもので、課題は何か。また、紛争の「勝者」である政府が平和構築をすすめることの弊害はあるか。
- スリランカの内戦が長引いた要因、停戦合意が効力を持たなかった要因は何か。
- スリランカにおける和解とは、誰と誰の和解なのか。
- 平和構築と人道支援が同一のものではなく、時として相反する行動が求められる時、人間の安全保障はどう確保されるべきなのか。
<議論の内容>
実際に国連が行った平和構築活動の中でもスリランカは、勝者が紛争後に国の立て直しを行うという興味深い事例であり、それが平和構築にとってもマイナスに働く可能性が考えられる。そのため、恒久的な平和構築のためにも、よりよい紛争の解決の道がなかったのかを国連機関、関連諸国などのアクターに分かれ議論した。議論の中では、解決のための積極的な関与はスリランカ政府の態度を硬化させるだけであり、少しひくべきだという意見もあった。国内的にはテロとの闘いであり、国際的には内戦とされるスリランカの場合、タミル・イーラム解放のトラ( Liberation Tiger of Tamil Eelam : LTTE )とスリランカ政府それぞれの距離感が、解決をより難しくしていたことがうかがえる。
<問題意識に対する仮説>
- (1) 平和構築の課題について
- 勝者が行うことで、タミルの意見が尊重されていない国づくりが進んでいる可能性がある。
- (2)スリランカの内戦が長引いた要因、停戦合意が効力を持たなかった要因
- スリランカ政府が国際社会の支援を拒んで暴力の悪循環が生じたことが要因と考えられる。国際社会及び外部アクターとして大規模な介入が難しい場合、いかにして人々の生活の中で民族の融和をはかっていけるかがキーポイントではないか。
- (3)スリランカにおける和解の主体について
- 最後まで戦っていたのは政府とLTTEだが、シンハラ人、タミル人がお互いに恐怖を感じる状態は続いている。紛争のアクターに限らない、広範囲な人々が和解の主体となりうる。
- (4)平和構築と人道支援が相反するということについて
- 紛争中は真実の追求が難しいため、平和構築、人道支援のどちらか一方だけに焦点をあててしまい、結果的に人間の安全保障がうまくいかない場合がある。
<勉強会参加者 所感>
紛争後の平和構築を様々なセクターから見ていくことで、紛争の解決方法は多様であり、かつ、様々なセクターからの介入がときには重要な役割を果たし、その国を本当の意味での平和国家に築き上げるということを理解した。だからこそ、紛争後の平和構築は外部がどのような役割を担い、誰が主導で平和構築を進めていくのかかが大事なのだと認識した。
<佐藤安信先生からのコメント>
第一部で、「平和構築」の定義、概念を研究者、実務者の文献や報告書から分析し、第二部で、スリランカの事例を、その歴史や背景などから調査して報告された。大阪、九州などともWEBでつないでの議論は興味深かった。報告者はもちろん、参加者は皆よく勉強していて感心した。特に若い女性が力強く報告する姿には大変勇気づけられた。
パワーポイントも大変わかりやすく工夫され、効果的であった。勉強会は、渡航3ヶ月前ということでもあったので、その後さらに勉強されたものと思われるので当を得たコメントではないかもしれないが、もっと焦点を絞って深めてみたり、口角泡を飛ばして討論してみたりすることも重要だと思う(意地悪な言い方をすると、優等生的で上品過ぎ?)。特に、日本語で日本人のみでの勉強会ということでの限界もあったと思う。
現地では、もちろん、スリランカ人らとコミュニケーションをとるのであるから、事前に、在日のスリランカ人や、WEBを使って訪問予定の方達に参加してもらってコメントをもらうなどできれば、現場でもっと役立ったかもしれない。とはいえ、単なるツアーではない、プログラムとして多面的にしっかりと準備され、かつ報告会も充実しているようで、こちらにも参加してみたいと思う。新たな体験型ゼミというような教育手法として私自身も良い勉強になった。ありがとうございます。