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第22回
ナブ(鈴木) 裕子さん
「援助協調、援助効率向上の理想と現実
タンザニアにおける援助協調と今後の課題 」


第21回
宮沢 一朗さん
「国連機関がひとつになり効率よく援助するために」


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坂根 宏治さん
「中進国における援助枠組みの現在:
ジャカルタコミットメント誕生プロセスに見るインドネシアの援助協調の動向と今度の展望」


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「Social Cohesion(社会一体性)を考慮したコミュニティー参加型開発」


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「紛争後の復興開発支援におけるコミュニティ主導型開発の役割」


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「共通の目的を持つならば, 受入国政府の能力強化計画を一緒にテーブルについて考えてみよう」


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「中国でリーダーのプロフェッショナルスクールを作ろう!」


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コミュニティ主体の開発と外部者の役割


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地震多発地域で各コミュニティーの地域性に合った防災文化を構築する


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「緊急援助から開発協力へのスムーズな移行のために」


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「多くの途上国が環境先進国となるインセンティブとして、国際排出量取引を活用しよう」


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「援助協調促進のための新興ドナーとの情報共有を実現させよう」


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メンター制度を創設しよう
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国連の諸機関のバックオフィス機能を統合する国連サービスセンターを設立しよう


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民間資金の復興ファンドをつくろう


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水田 愼一 さん
日本発で平和構築への企業の取り組みを推進しよう


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長谷川 祐弘さん
包括的な平和構築支援の必要性
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援助効率化: 援助の根本的改革は達成できるのか?

OECD 援助効果課アナリスト
渡部 美佐紀
さん


略歴: 渡部 美佐紀(わたなべ みさき) 2002年米コロンビア大学卒業、スイス・ジュネーブのHautes Études Internationales (HEI)で修士号を取得。UNDPの紛争予防・復興局(Bureau of Crisis Prevention and Recovery)にてナレッジ・マネジメント関連の仕事に4年半関わる。2007年よりOECDでアナリストとして勤務、 援助効果作業部会(Working Party on Aid Effectiveness)事務局の一員としてParis Declaration Monitoring Surveyや新興ドナーとの協議など、アクラ第三回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラム(HLF3)の準備に貢献する。


1.はじめに
2.援助効率化に向けての取り組み
  2−1.至難のワザ?
  2−2.パリから数年後、援助は効果的に活用されているのか?
  
2−3.Accra Agenda for Action: パリ宣言実現のためのギアシフト?

3.援助効率化を達成するために
4.プログレスのためには: Political Will の重要性


1.はじめに

2007年の間、ベトナム国内で開発に取り組んでいる各省庁は、合計752回以上のドナー・ミッションを受け入れた。ベトナムの省庁職員は、一日平均3回以上海外からの客の対応に追われていることになる。現在ウガンダ国内には27カ国以上のドナーが多様な援助活動を行っている。各ドナーの個別プログラム管理のために、ウガンダ政府側は報告書、規制などを個々に対処しなくてはならない。もともと基礎管理機能が弱い政府省庁にとってこれはとてつもないコストになる。一方、国際社会はミレニアム開発目標を達成するために最貧国への開発援助を提供するコミットメントを繰り返し表明している。善意で提供されているはずの援助―しかし現実は被援助国にかなりの害を与えているのでは?

Is aid doing more harm than good? The picutre shows a charicature of how providing aid might be doing more harm than good. This picture was featured in the Economist.

援助の効果性を改善する取り組みは、被援助国側自身が自国の開発管理能力を向上させていくことを最重要視している(オーナーシップ)。援助の効果を向上させるためには、発展途上国自身が自国の貧しい市民への福祉制度を改善し、国の長期的な貧困撲滅・経済発展を目標に援助支援や自国の税収を有効に活用する能力を養うことが必要である。開発を促進するためには、被援助国自身が自国の発展のために必要なプライオリティを明確にさせなくてはならない。開発は発展途上国自身の責任であり、ドナー国は被援助国側のリーダーシップに伴い援助を提供しなくてはならない。

2.援助効率化に向けての取り組み

2−1.至難のワザ?

援助を効果的に活用するのは困難なのだろうか?その答えは一見簡単なように見える。なぜならばOECD開発援助委員会(DAC)の23ドナー国は過去数十年間の開発協力経験からさまざまな教訓を学んできたからである。

最も重要な教訓は、ドナー国は被援助国自身の開発に向けてのプライオリティを最重要視する必要があるということである。ドナーは独自のプロジェクト等に自己満足せず、被援助国側の貧困削減政策や開発目標をサポートする目的で援助支援に携わらなければならない。さらに、ベトナムやウガンダなど前述のケースのように援助管理の取引コスト低減のため、ドナー側はプロセスを簡素化し、情報を共有するなどの努力も必要である。一方、被援助国側も政府の財政管理機能の改善に真剣に取り組み、国の収益や援助支援金が効率的、しかも公正に使われるように努力しなくてはならない。

このような教訓をもとにパリ宣言(The Paris Declaration on Aid Effectivenessは、2005年第二回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラムにて100カ国以上の国と国際機関、国際金融機関等により採択された。この宣言は、援助効率化五原則を中心に、開発援助をより効率的に活用することを目的に、56件のパートナーシップ・コミットメントが設定されている。パリ宣言はドナー主導の援助関係から、被援助国主導で進められる開発パートナーシップに重点を移行し、”被援助国“から”パートナー国“への改称を提唱している。

援助効率化五原則は:

オーナーシップ(Ownership): パートナー国側が自国の開発についてリーダーシップを発揮し、自国の開発発展政策や戦略を実現させる能力を補強する。

アライメント(Alignment): パートナー国の開発計画に伴って、ドナーが援助を行うということである。パートナー国の内容に沿って途上国の公共財政管理などのシステムの活用、二国間援助のアンタイド化などの促進を目指す。

調和(Harmonisation): ドナーの活動をより調和させ、共通の手続きと簡素化した手順を実施する。援助の透明性と長期計画性向上に努力し、各自ドナーの経験や長所を元に効果的な分業を計らう(Division of Labour)。援助実施の手続きをドナー間で調和化させることでパートナー国の負担を軽減することでもある。

成果マネジメント(Managing for Development Results): 開発成果達成のために有効的な情報活用、パフォーマンス評価、援助管理・実施を計らう。

相互説明責任(Mutual Accountability): ドナーとパートナー国は開発成果に関して相互に説明責任を有する。


2−2.パリから数年後、援助は効果的に活用されているのか?

援助がより効果的に活用されればパートナー国の開発に貢献できるという可能性は誰も疑わない。ドナー国側にとっても、無駄や不正につながるリスキーな支援管理体制に援助を注ぎ続けることに意義は無い。前述のようにDAC内などに援助を効果的に使うノウハウは蓄積されている。しかし、パリ宣言が提唱するような原則から根本的に業務執行方法を改革するのは容易ではない。

パリ宣言採択から数年を経た現在、援助はパートナー国の開発目標達成のためにどれくらい貢献しているのか? その答えは、パリ宣言コミットメントの実現度を評価するモニタリング調査(Paris Declaration Monitoring Survey)によって明らかになる。このモニタリング調査は、パリ宣言コミットメントのうち12項目の指標を設置し (12 Indicators for Progress)、その実行状態をパートナー国レベルで評価するものである。2006年に34パートナー国内で初めて調査され、援助効果の現状を表すベースラインを特定し、それを元に、2010年の援助効果向上目標達成のターゲットが設定された。2008年に実行された追跡調査は55カ国で実行され、その結果は後述するアクラ第三回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラムで公表された。この調査はパートナー国と現地ローカルドナー間で援助をより効果的に活用するために必要な課題や問題点を表面化させ、相互解決方法を協議するのに役立つツールとされている。例えばこの調査により、2007年度にドナー・ミッション総数は55カ国内で14,500件を超えたことなどが判明し、これはパートナー、ドナー国共に高いコストを担う援助の効率化に反する問題であると認識された。

2008年度の調査の結果は明確である:2005年度に比べ、援助効率化に向けて多少の進歩を遂げているが、そのペースは遅く、十分ではない。ドナー、パートナー国とも真剣、かつ早急に改革に取り掛からなければ、2010年の援助効果向上目標を達成するのは困難である。今すぐ行動を実行する必要がある。

2−3.Accra Agenda for Action: パリ宣言実現のためのギアシフト?

2005年のパリ宣言採択後の進歩状況を評価する目的で、第三回援助効果向上ハイレベル・フォーラム(HLF3)は2008年9月2〜4日にガーナの首都アクラで開催された。このフォーラムには各国開発担当・財務大臣、OECD事務総長や世銀・地域銀行総長などのハイレベル出席者、市民社会団体、財団などを含む1,700の参加者、実に125カ国、30機関からの出席を募った。このイベントはガーナ主催国の元にOECD、世界銀行、国連を含む援助効果作業部会(Working Party on Aid Effectiveness)メンバーが中心となって準備された。

At the Third High Level Forum on Aid Effectiveness in Accra, Ghana

アクラHLF3の結果はアクラ行動計画(Accra Agenda for Action−AAA)の採択である。採択されたAAAはパリ宣言を補完するものであり、援助効果の更なる向上に向けた決意および2010年までの優先取組事項を記載している。いわゆるパリ宣言コミットメントの実現を加速するためのロードマップを設定したものだ。AAAの内容は、数ヶ月に及んだ各国・地域レベルでの包括的な協議、さらに援助効果作業部会下の代表準備会合(コンセンサス・グループ)により議論された結果である。このような協議は援助の有効活用を妨害するボトルネック等を表面化させ、その解消方法や優先事項を特定するために必要なプロセスであった。結果としてAAAはより強いパートナー国オナーシップ、より包括的なパートナーシップ構築、そして開発成果達成のための相互責任強化を提唱している。

3.援助効率化を達成するために

アクラHLF3後の課題とは何か?最も重要なチャレンジは、アクラを単なる“宣言”に終わらせず、行動を根本的に変える真のロードマップとして実行させていく必要性である。AAAの実現には、すべての開発ステークホルダーの政治的支援と個々のプロセスやシステムを改善・改革する努力が必要である。さらに、ドナー、パートナー国に加え、市民団体、国家議員団体、民間セクター、新興ドナー国、地方政府、一般市民などと、開発に対し幅広く責任が共用される必要性もある。このような改革を促進するためにはいくつか重要な課題がある:

パートナー国のオーナーシップ能力強化: オーナーシップ強化は、パートナー国自らが開発計画作成、開発の実現の重要性を再認識した上で、国家開発に取り組むことである。さらに国家開発の包括的プロセスの一部として、国会議員、市民団体、地方政府などが包括的に国家開発に取り組む必要がある。

より包括的なパートナーシップ構築: 国際社会の変化に伴い、国際援助の支援環境は変化しつつある。新興ドナー(韓国、中国、ブラジルなど)、南南協力、市民団体、グローバルファンドなどの垂直的基金(vertical funds)、民間セクターなどによる援助額は年々拡大している。このような現実を反映して、AAAは、全てのステークホルダーが開発に貢献する役割を認識した上でパリ宣言の五原則を元に援助を提供することを奨励している。

開発成果(development results)についての相互説明責任: AAAはドナー、パートナー国がお互いに開発成果を適正に評価するために必要な情報やパフォーマンス管理システムを構築・補強する重要性を指摘している。さらに援助の透明性・予測性を向上するために、ドナー国は、パートナー国に対し3〜5年先の援助計画の情報を提供する重要さを指摘している。

4.プログレスのためには: Political Will の重要性

今後進歩を遂げるために最重要のファクターは、ドナー・パートナー国相互の援助効率化に向けた優先事項に積極的に取り組む”political will”である。それを成し遂げるためにいくつかの提言がある:

パリ宣言の政治的サポートを募る: パリ五原則(例えばオーナーシップなど)は援助関係を根本的に変える政治的コミットメントである。しかし、パリ・アクラ両コミットメントの弱点として、狭い開発専門・技術者サークルの外での認知度が低く、内容の理解度も低い。ドナー・パートナー両国内でも中央省庁(財務省等)の関係者外、特に一般市民の認知度は低い。今後の課題は、どのようにパリ・アクラ両コミットメントを幅広くコミュニケートし、政治的サポートと関心を募れるかということである。

真なるパートナー国オーナーシップ: 未だにパリ・アクラ両コミットメントはドナー主導だと指摘される。パリ・アクラの重要性を認知し、実行に移しているパートナー国関係省庁(文部省等)は増えてはいるが、オーナーシップを実現するためには開発についての関心と幅広いステークホルダー(セクター関連省庁、国会議員団体、地方自治体、市民団体)の関与が必要である。

キャパシティ、さらに相互の信用度の強化: パートナー国側のキャパシティ・ビルディングについてはまだ課題が多い。特に国の公共財政管理システム(監査、財務報告、予算計画プロセス)などの強化は長期的なプロセスである。パートナー国はこのようなシステムに長年支援を受けたにもかかわらず、未だに資金活用に関しての課題は多い。一方このようなシステムが強化されたにもかかわらず、ドナー側がシステムの使用を渋るケースも多い。パリ・アクラ両コミットメントは、パートナー国のシステムを使用するのはオーナーシップの強化と長期的発展のために重要だと指摘している。そのためシステムの技術的な改善だけではなく、パートナー国とドナー国間の信頼度を強める必要がある。

リスク・マネジメント: パートナー国の公共財政管理システムを使用するのはどうしてもリスクが伴う。ドナー国としては資金の不正使用のリスク発生の予防に関心がある。このようなリスクを管理するため、ドナー国は徐々にフィールド・オフィスに権限を委任(delegated authority) するよう奨励されてる。フィールド・スタッフは他のドナーと共にパートナー国との協議に参加し、このようなリスクを柔軟的、かつ包括的に管理するよう働きかけることが重要だ。

“援助効率化”は産業ではない: よく援助効率化の議論で指摘されるのは“援助効率化”自体が産業化され、これに関わる取引コスト、会議の多さなどが援助に逆効果ではないかという批判である。援助効率化は長期的開発をサポートするための一環であるという理解が必要である。

援助の議論は国際的支援構造(global aid architecture)の変化に柔軟に適応する必要がある。援助はミレニアム開発目標やその他の開発コミットメントの達成のために貢献する方法の一つに過ぎない。開発援助は、その他の資金流通や政策などと共に包括的に管理される必要がある。アクラ会議ではこのような開発協力分野の多様性を認識し、今までのドナー以外に援助を与えている国や基金(新興ドナー、南南協力、垂直基金、民間セクター)などを援助効率化の議論に取り込む必要性を指摘している。このようなステークホルダーは新たな視点と多様な経験を持ち、援助効率化の対話を豊かにする可能性が大きい。

援助効果向上原則は、貧困撲滅、ミレニアム開発目標達成や長期的経済発展に立ちはだかる全ての問題を解決するわけではない。一方パリやアクラコミットメントが真剣に実行されれば援助リソースを最大限に活用するためのフレームワークとして生かされる可能性がある。2010年のパリ宣言目標達成期限、2015年のMDGの目標達成期限が迫っている中、国際社会は援助を有効的に使うために早急に取り組まなければならない。

 

 

 

参考文献

Chair’s Summary – the Third High Level Forum on Aid Effectiveness in Ghana, Accra (2008) http://siteresources.worldbank.org/ACCRAEXT/Resources/Chair_summary-ENG.pdf 

Reaching our development goals: why does aid effectiveness matter? http://www.oecd.org/dataoecd/43/31/40987004.pdf 

The Paris Declaration on Aid Effectiveness (2005) http://www.oecd.org/document/18/0,3343,en_2649_3236398_35401554_1_1_1_1,00.html 

The Accra Agenda for Action (2008) http://www.oecd.org/document/18/0,3343,en_2649_3236398_35401554_1_1_1_1,00.html 

OECD Development Cooperation Report 2009
http://www.oecd.org/document/62/0,3343,en_2649_33721_42195902_1_1_1_1,00.html

2008 Survey on Monitoring the Paris Declaration: Making aid more effective by 2010
http://www.oecd.org/dataoecd/58/41/41202121.pdf

 


 

2009年9月5日掲載
担当:中村、菅野、宮口、藤澤、迫田、奥村、高橋、荻

 



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